〈高市総理誕生でタワマン民が大ピンチ〉住宅ローンはさらに上昇も給料は上がらず…銀行の審査厳格化で転売ヤーも涙目という記事がYahooニュースに上がっておりました。
内容を読むと、
- 住宅ローン金利が上がる
- 財政赤字で金利は下げられない
- 銀行がタワマン転売を理由に融資を絞り始めた
- 9500万円ローンで月4万円アップ
- 変動金利がさらに上昇する可能性大
と、不安を煽るような表現が連続しています。
ですが、このまま鵜呑みにして良い内容ではありません。この記事を冷静に読み解いて、ポイントごとに事実と誇張を整理してみました。一応記事を下記に引用しておきます。興味のある方はどうぞ!
住宅ローンの変動金利がジワジワと上がっている。高市早苗政権ではどうなるのか。不動産事情に詳しいジャーナリストの築地コンフィデンシャル氏は「金利上昇を抑えるためには財政赤字の削減が不可欠だが、高市次期首相が積極財政を掲げる限り、難しいだろう」と解説する。なぜなのか。そして住宅ローンは今後、どうなるのか。
返済負担はジリジリと重くなりつつある
都内では新築でも中古でも1億円を超え、「下がる要素がない」とまで言われていたマンション市場に変調が生じている。発端となっているのは、都心のタワマン相場を下支えしていた銀行の融資姿勢の見直しだ。
一部の銀行が「タワマン転売」を問題視し、融資を絞り始めたことが明らかになっている。「令和の貸し渋り」が始まりつつある中、住宅ローン金利の上昇も相まって、マンションを購入した人々の返済負担はジリジリと重くなってきている。
「銀行がローンを貸してくれないせいで、人生計画が狂った」
東京都・勝どきの某人気タワマンに住むAさんはこう憤る。近隣のタワマンへの住み替えを検討していたが、新居の住宅ローンの審査が下りず、諦めることとなったのだ。
事前審査では何の問題もなかったものの、本審査になると各行とも融資を断ったり、想定よりも融資額を引き下げられたりで、望むような条件で住宅ローンを組むことができなかったという。
銀行側は理由を明かしていないが、「短期間での買い替えの場合、銀行側が転売を警戒しているのでは」と仲介会社からは説明を受けたという。この仲介会社でも、このようなケースは初めてではないという。
タワマン高騰を押し上げたのは「半住半投」のサラリーマン
マンション価格が急騰する中、新築マンションを購入し、すぐに転売することで利益をあげる手法がもてはやされ、都心の人気のタワマンに転売目的の人々が群がっているのは周知の事実だ。
東京カンテイによると、8月の東京都心6区の中古マンション(面積70㎡換算)は前年同月比33.5%増の1億7030万円だった。実需が中心であるさいたま市や千葉市の同時期の上昇幅が4~5%程度だったことからも分かる通り、東京一極集中が加速している。
都心部の不動産の高騰は投機マネーの流入によるものだ。
もっとも、投機マネーといっても、タワマン投資の場合、富裕層や海外投資家、中国人といったプレーヤーだけではない。
年収1000万円を超えるエリートサラリーマンが住宅ローンを使って将来の値上がりを見越した半分居住、半分投資の「半住半投」のプレーヤーがこのマーケットに押し寄せたのだ。
年収1000万円を超えているというだけで1億円、夫婦とも高収入のパワーカップルであれば2億円を融資するという銀行の姿勢があったからこそ、豊洲や勝どきのファミリータイプの3LDKが2億円近い価格で取引される現在の市況が肯定されていた。
しかし、あまりにも急激な価格上昇は、ひずみをもたらした。購入と売却を繰り返す「空中族」の中には1年間で2回、3回と融資を受けて転売を繰り返すという、住宅ローンの理念から外れた取引も増えていた。
引き渡し前の新築タワマンの「含み益」を前提に、次に値上がりしそうな物件を探すといった、限りなく黒に近いグレーな話すら一部のインフルエンサーが「投資手法」として広げていた。
金利が上がって、さらに月に1万円も支払いが増えるのは正直厳しい
銀行側も手数料収入が見込めるため、これまでは収入を証明する書類さえあればグレーであろうが融資する姿勢を続けていた。
しかし、住宅価格の高騰が政治マターになり、都政や国政レベルでもテーマとして取り上げられるようになった中、銀行側も政治や行政からの圧力を受けて審査を厳格化せざるを得なくなったとみられる。融資が絞られると必然的に、野放図な転売は阻止されることになる。
Aさんの場合、今回の引っ越しはより広い部屋を求めてのものだったが、その部屋は分譲価格から3倍近い価格で取引されており、引っ越しに伴い売却となれば1億円近い利益が出る予定だった。まだ入居から2年も経っていなかったため、転売目的だと銀行側に受け取られた可能性がある。
銀行の融資姿勢の変化は、転売防止だけではない。足元では金利上昇というファクターが加わっている。みずほ銀行は10月1日、変動型の住宅ローン金利を0.25%引き上げた。新規契約者に適用する最優遇金利は0.775%となり、2015年12月以来の高水準だ。
「金利が上がって、さらに月に1万円も支払いが増えるのは正直厳しい」
東京都港区、芝浦のタワマンに住むBさんはこう嘆く。
「無理をしてまで貸さない」という戦略が浸透
Bさんは2022年に9500万円のローンを組んで自宅を購入したが、当初24万円程度だった月々の支払いは2度の利上げで26万円程度になるという。
住宅価格の高騰で数千万円の「含み益」を得ているBさんだが、中学受験を控えた子供の教育費をはじめ絶対に削れない固定費が多く、「儲かっているという感覚はまったくない」とため息をつく。
みずほ銀行は21年に変動金利を当時の最低水準だったネット銀行並みの0.375%に引き下げるなど、メガバンクの中でも住宅ローンの貸出に積極的な銀行として知られていた。しかし、金利上昇局面に転じると態度を一変、金利引き下げ競争から身を引きつつある。
住宅ローンを主力商品と位置づけるネット銀行も同様だ。
PayPay銀行やSBI新生銀行、auじぶん銀行といった各行が競うように低金利競争を繰り広げ、24年には0.2%台で貸し出していた銀行もあったが、現在は最も低い銀行でも0.5%台となっており、かつて低金利の代表格だったauじぶん銀行は今年に入ってすでに2回金利を引き上げ0.8%台となっている。
利上げにより各行とも収益環境が悪化する中、「無理をしてまで貸さない」という戦略が浸透している。
高市次期首相が積極財政を掲げる限り…
今後も住宅ローン金利の引き上げは続く可能性が高い。日銀が9月に開いた金融政策決定会合では、9人のメンバーのうち、2人の審議委員が利上げを提案。
後日公開された議事録では、「前回の利上げから半年以上が経過していることもあり、そろそろ再度の利上げを考えてもいい時期かもしれない」「海外対比で低水準の実質金利の調整を行い得る状況と考える」といったコメントもあった。
日銀の利上げに慎重姿勢を見せる高市早苗政権が誕生することで利上げのタイミングが後ズレする可能性はあるものの、政策金利を上げなければ円安が進み、インフレが加速しかねない。市場の焦点は政策金利を「上げるか上げないか」ではなく、「いつ上げるか」に移っている。
既に将来の金利の先行指標である長期金利は上昇が続く。2016年から約6年間、0%台だった30年物国債の金利は上昇傾向にあり、現在は3%台で取引されている。
金利上昇を抑えるためには財政赤字の削減が不可欠だが、次期首相となる見込みの高市氏が積極財政を掲げる限り、難しいだろう。インフレが収まらない中、近い将来、0%台の住宅ローンは過去のものとなるだろう。
住宅ローンの支払い負担が手取りの増加額を上回る状況となるのは確実
現在、住宅ローンを借りている人の約8割が変動金利を利用しているとされるが、今後、彼らは金利上昇のたびに支払いの負担が重くなることになる。Bさんの場合、住宅ローン金利が1.5%となれば、月々の支払額は30万円となり、現在よりも4万円程度高くなる計算となる。
昨今の賃上げブームによりBさんの勤める大手ソフトウェア企業も賃金を引き上げているが、若手社員に比べ、中堅社員の引き上げ幅は限定的だ。
月々の給料が上がったとしても、そこから税金や社会保障費が引かれるため、現状の賃上げペースでは、住宅ローンの支払い負担が手取りの増加額を上回る状況となるのは確実だ。
タワマンを購入すればすぐに数千万円の含み益が誕生し、転売を繰り返すことでサラリーマンでも億を超える財産を築くという時代は終わりに近づいているのかもしれない。
1.「財政赤字を削減しないと金利は抑えられない」は正しいのか?
記事では、
「金利上昇を抑えるためには財政赤字の削減が不可欠」
と断言しています。
しかし、日本は20年以上財政赤字を続けながら超低金利を維持してきた国です。実際に金利を左右している主な要因は次の3つです。
- 日銀の金融政策
- インフレ率と市場の期待
- 国債の需給(その多くを国内勢が保有)
「財政赤字=金利上昇」という図式は過去の一般論ではあり得ますが、現在の日本の構造には必ずしも当てはまりません。この記事の表現は、高市氏の「積極財政」批判と結び付けたい意図が強く、金利との関係を単純化しすぎています。
2.「タワマン転売を警戒して銀行が融資を絞り始めた」は事実か?
記事では「一部の銀行が転売目的の住宅ローンを制限している」と書かれています。
確かに、短期売却や短期間での買い替えについて審査が厳しくなるケースはあります。ただし、
- 実需向けの一次取得者への融資は通常通り継続
- 公的な規制や業界全体での統一方針は存在しない
- 政治的圧力によるものとの根拠は示されていない
したがって「転売目的の過度な利用者に対する一部対応」という程度であり、記事のように“貸し渋りが広がっている”と断定できる状況ではありません。
3.「変動金利0.775%は高水準」は本当か?
みずほ銀行が10月に変動金利を0.25%引き上げ、0.775%となったことが「2015年以来の高水準」と記されています。
ただし、以下の点を考慮する必要があります。
- 2010年代の変動金利は0.8〜1.1%が一般的
- 過去の住宅ローンは2〜3%台が普通だった時代も長い
- 住宅ローン控除を踏まえると実質負担はさらに低い水準
「底値から少し戻しただけ」であり、歴史的にはまだ低金利圏に含まれます。「高水準」という表現はやや誇張気味です。
自分が住宅を購入した1990年代は、3%で低金利と騒がれていたんですよ!住宅を購入するなら今しかないと、住宅雑誌が編集記事で何度も取り上げていました笑。
4.記事内の「Bさん」の返済増加は現実的か?
記事では次のように書かれています。
「2022年に9500万円のローンを組み、当初24万円だった月々の支払いが、2度の利上げで26万円となった」
ところが、多くの金融機関の変動型住宅ローンには以下の仕組みがあります。
- 5年間は返済額を据え置く「5年ルール」
- 増加幅は元返済額の1.25倍以内に抑える「125%ルール」
この仕組みを踏まえると、借入後3年程度で毎月の返済額が2万円も増えるのは通常は考えにくい状況です。
もし「金利が上がって2万円増えた」という表現が事実だとすれば、
- 元利均等返済ではなく金利変動型の特殊商品
- 5年ルールや125%ルールが適用されない商品
- 固定期間終了後の変動切替による増額
- 「返済額」ではなく「利息負担額」の増加を月換算した表現
のいずれかにあたる可能性があります。
しかし記事ではその説明がなく、あたかも“変動金利ならすぐ返済額が跳ね上がる”と誤解させる内容になっています。
5.「金利1.5%になったら月4万円増」はどうか?
記事では「金利1.5%なら月30万円になり、4万円増」と記載されていますが、ここでも変動金利特有の仕組みは無視されています。
返済額に反映されるのは5年に1回の見直しであり、仮に大幅に金利が上がった場合でも、元の返済額の1.25倍以上に急増することはありません。もし基準が24万円なら、最大でも約30万円程度までが上限になります。
「即時に大幅増額する」というイメージを与える記事内容は、制度を理解しない読者に不安を与えるものです。
6.実際の返済額シミュレーション(9,500万円と6,000万円)
記事のBさんモデルと、福岡エリアで多い6000万の借入額で試算を掲載します。
【前提条件】
・返済期間35年/元利均等/ボーナス返済なし
・変動金利の例として0.4%、0.7%、1.0%、1.5%
<借入9,500万円の場合>
| 金利 | 月返済額 | 増減 |
|---|---|---|
| 0.4% | 約24.1万円 | 基準 |
| 0.7% | 約25.5万円 | +約1.4万円 |
| 1.0% | 約26.8万円 | +約2.7万円 |
| 1.5% | 約29.1万円 | +約5万円弱 |
Bさんが2万円近く支払いが増加するには、0.4%以下の金利から0.8%くらいになったってことですかね?
先に書いたようにすぐには上がらないわけですが。。。
<借入6,000万円の場合>
| 金利 | 月返済額 | 増減 |
|---|---|---|
| 0.4% | 約15.2万円 | 基準 |
| 0.7% | 約16.1万円 | +約0.9万円 |
| 1.0% | 約16.9万円 | +約1.7万円 |
| 1.5% | 約18.4万円 | +約3.2万円 |
月々15万円で計算している支払いが、17万円近くになるとやっぱり大変ですよね。
ローンの借り入れには、やはり余裕が必要です。
こちらの記事を参考にしてください。
7.まとめ
今回の記事には、事実と憶測が混在しています。
- 金利の決定要因は財政赤字だけではない
- 融資引き締めは一部事例であり、全体傾向とは言えない
- 金利0.775%は依然として低水準
- 借入3年で返済額が2万円増は制度上不自然
- 変動金利には返済増加を抑えるルールがある
結論として、現時点で「変動金利利用者が一斉に危機的状況に追い込まれる」という状況ではありません。
不安を煽る記事は、一旦無視してもいいのではないかと思う今日このごろです。

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