シンガポールに行くなら、ここだけはどうしても見ておきたい ― そう決めていた建物でした。都心からタクシーで向かいましたが、思っていたよりも距離があります。到着すると、ジェンガを積み上げたような塊が目の前にそびえていました。



なぜこの形なのか ― タワーへの反抗
この建物を手がけたのは、建築家オーレ・シェーレンです。設計時はOMA(レム・コールハースが率いる設計事務所)のパートナーとしてこのプロジェクトを主導し、竣工前後に自身の事務所ビューロ・オーレ・シェーレンを設立しています。
正直なところ、見た瞬間に浮かんだのは「なぜこの形にしたのか」という疑問でした。通風や採光に優れているわけでも、バルコニーが特別広く取れるわけでもなさそうです。調べてみると、答えは個々の住戸の快適性ではなく、もっと大きな都市計画的な発想にありました。シンガポールの住宅地といえば、孤立した高層タワーが林立するのが定石です。シェーレンはこれに反抗し、6階建てのブロックを31棟、六角形状に積み重ねることで、8つの大きな中庭を作り出しました。タワーで縦に人を隔離するのではなく、積み重ねたブロックで横のつながりを生む「垂直の村」という発想です。中庭は風の通り道を計算して配置されており、個人の住戸単位ではなく、コミュニティ全体としての通風・緑化(敷地面積を上回る緑被率とも言われます)を狙った建物です。



見学について
この建物は分譲住宅で、正式には居住者とその同伴者以外の立ち入りは想定されていません。今回は入口の門番に英語がうまく通じず、よく分からないまま中に入ることができましたが、これは本来の見学方法としておすすめできるものではありません。(ほんとになぜ入れたのか?未だに不明)
住民の生活の場でもあるため、敷地内に入れた場合も外観撮影を中心に、室内が写り込むような撮影は控えるのがマナーです。
ジェンガのような迫力
実際に目の前に立つと、ずっと見ていても飽きないような迫力があります。斜めに積み重なった巨大ブロック。ブロックの隙間ら見える空。ブロック下の住居の影。
巨大な建築物が積み上がっているカタチは、写真以上に見ごたえがあります。
都市の中の「村」
シンガポールという、高層タワーが効率よく整然と並ぶ都市の中で、この建物だけが全く違う論理で建っています。この「タワーではなく村を作る」という発想の転換自体が、シンガポールの住宅地の中でひときわ異彩を放つ理由なのだと感じました。
※本記事は2015年の取材時点の情報をもとに構成しています。見学可能な範囲や施設情報は変更される場合があるため、訪問前に最新情報をご確認ください。